がんの進行や治療の副作用で性生活に影響が出ることがありますが、性の問題は他人にも相談しにくいことです。しかし、性生活やパートナーとの関係性を考えることは恥ずかしいことでも贅沢なことでもありません。がんの治療によって性生活にどのような影響があり、どのような対処法があるのかを知っておくことは、自分らしい生活を送るためにも大切なことです。がんやがんの治療が性機能へ与える影響については担当医師などに相談することもよいでしょう。

男性の性生活に影響を与える治療

がん治療によって生殖器や性機能に関わる神経が障害を受けたり、 男性ホルモンのテストステロンやアンドロゲンの分泌が低下したりすると、 性生活に影響が出ます。その影響には一時的なものと長期的、永続的なものがあり、影響の現れ方は治療の種類、治療期間などによっても異なります。

治療法影響
手術
  • 前立腺、陰茎(ペニス)、精巣(睾丸)、直腸、膀胱など骨盤内の臓器のがんで性機能に関わる神経を切除すると勃起不全(ED)や射精障害が生じることがある
  • 両側の精巣を摘出するとテストステロンの分泌が減少し性欲の低下、勃起不全 が起こる場合がある
  • ストーマの造設、手足の切断、頭頸部のがんの手術など、ボディイメージの変化も性生活に影響を与えます。
薬物療法
  • 一部の抗がん薬は一時的に精巣の機能を低下させ性欲の低下をまねく
  • 前立腺がんのホルモン療法は男性ホルモンの分泌を減少させ性欲の低下、勃起不全が生じことがある
  • オピオイド鎮痛薬や抗うつ薬などの薬も性欲を低下させ、性生活 に影響が出ることがある
  • 血液がんの造血幹細胞移植後、陰茎 の先に移植の副作用である GVHD(移植片対宿主病)が起こると、性交時に痛みや出血が起こる場合もある
放射線療法
  • 前立腺、陰茎、肛門、膀胱など骨盤内の臓器への放射線の外部照射、腔内照射(内部照射)は男性の性機能を低下させ、勃起不全になることがある
  • 脳や骨盤内の臓器への放射線照射は精巣の機能に影響を与えテストステロンの分泌が減 少して、性欲が低下し勃起障害が起こることもある
  • 放射線が照射 された部位の皮膚は乾燥しやすく硬くなったりただれたりして触られた感じが 変化することもある

女性の性生活に影響を与える治療

がん治療によってホルモンの状態や外見が変化すると性生活に影響が出ることがあります。その影響には一時的なものと長期的なものがあり、影響の現れ方は治療時の年齢、治療の種類、治療期間などによっても異なります。自分の受ける治療の性機能への影響やその対処法について知っておくことが大切です。

治療法影響
手術
  • 子宮、卵巣、膀胱など骨盤内にある臓器のがんの手術で子宮と腟の一部を切除
  • すると腟が短くなって分泌物が減るため性交時に痛みを感じることがある
  • 両側の卵巣を摘出するとエストロゲンの分泌が減り性交痛やホットフラッシュなどの更年期症状が生じやすくなる
  • 膀胱全摘除術や直腸がんの手術で性機能に関わる神経などを切除すると性的興奮が低下することが少なくない
  • 乳房の切除や手術のキズ、ストーマの造設などによってボディイメージが変化し性生活に影響が出る人もいます。
薬物療法
  • 一部の抗がん薬やホルモン療法は卵巣機能に影響を与えエストロゲンと共にテストステロンの分泌が減少し性欲を低下させる
  • エストロゲンの分泌が減少すると腟粘膜の乾燥、萎縮が生じて性交痛、かゆみ、不快感、更年期症状が生じやすくなる
  • 血液がんの造血幹細胞移植後移植の副作用である GVHD( 移植片対宿主病 ) が腟粘膜に生じると腟の萎縮や炎症が起こることがある。また、オピオイド鎮痛薬や抗うつ薬によって性欲が低下する場合があります。
放射線療法
  • 子宮頸部、卵巣、膀胱、大腸、腟など骨盤内の臓器へ放射線を照射すると腟粘膜が乾燥して性交痛が生じることがある
  • 骨盤への放射線照射によって腟が狭窄(狭くなること)、萎縮すると腟周辺に痛みや不快感、炎症が生じやすくなる
  • 脳への放射線照射や下垂体腫瘍によって卵巣機能が低下すると20 ~ 30 代で閉経したり性機能にも影響が出たりすることがある
  • 放射線が照射された部位の皮膚は乾燥しやすく硬くなったりただれたりして触られた感じが変化することもある

治療中の性生活について

薬物療法中やその直後女性は腟の分泌物、男性は精液に薬の成分が含まれることがあるので性行為をするときにはコンドームをつけオーラルセックスは避けましょう。また抗がん剤治療中は胎児に影響があるため避妊をしましょう。薬物療法の副作用で抗がん剤治療による血球減少時期(抗がん薬投与7~ 14 日後)には感染のリスクが高まることがあるため性交を控えましょう。血球が回復すれば問題ありません。治療の性生活への影響、その対処法については、担当医や看護師などに相談してみましょう。またがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでも性生活も含めたさまざまな相談に応じています。

下記ではセックス・セラピストによる性に関するカウンセリングを実施しています。

がん相談支援センター
がん診療連携拠点病院

日本性科学会(有料)
https://sexology.jp/counseling/

がんになった後の生活について

パートナーとのコミュニケーションを大切に

手をつないだり、抱きしめたり、キスをしたり、添い寝をするなどのスキンシップをとったり、お互いの気持ちを素直に話し合うこともたいせつな愛情表現です。いきなり性交を試みるのではなく、パートナーと相談しながら新しい性生活の形を見つけていきましょう