がん治療中には、口の中にも様々な副作用が高い頻度で現れます。口の副作用は、痛みで患者さんを苦しめるだけではなく、食事や会話を妨げ、口の細菌による感染を引き起こすなど、がん治療そのものの邪魔をします。そのため米国ではがん治療を開始する前に歯科で口のケアを受け、合併症を予防しようとすることが一般的になっています。下記ではがん治療による口に起こる副作用についてご説明します。

抗がん剤治療による口の副作用

抗がん剤の治療中には、薬の副作用によって様々な口の副作用が起きます。口内炎は口腔内合併症の代表的なものでがんの種類や抗がん剤の内容によってその頻度や重症度の差はありますが、ほとんどの抗がん剤治療で口内炎が認められています。口内炎はふつう抗がん剤投与から1週間から10日くらいで起こり、その後は自然に治っていきますが、全身状態が悪かったり、口の清掃状態が悪く細菌が多いと、口内炎の傷から感染が起こり、症状が重症になったり治癒が遅れたりします。抗がん剤治療中は骨髄抑制といって細菌に対する体の免疫力が低下する副作用があります。がん治療中の吐き気やだるさなどで口の清掃が難しくなり口の細菌が増えることと重なると、口の感染症が非常に起こりやすくなります。またむし歯や歯周炎などの歯の治療がされていない状態で抗がん剤の治療が始まってしまうと、今まで症状のなかった歯が急に悪化し、痛みや腫れが起こることがよくあります

放射線治療による口の副作用

口や喉のがんで、放射線が口の周辺にあたる治療を行う場合は、ほぼ全員に口の中に何らかの副作用が現れます。放射線の口腔の副作用で最も重大なものは口内炎です。抗がん剤治療による口内炎と比べて重症で長引く傾向があります。放射線治療が始まり1~2週間くらいで口の粘膜はだんだんと赤み帯びて、腫れぼったくなり、ひりひりとした軽い痛みを感じるようになります。その後治療が進むにつれて粘膜炎は強くなり、強い痛みが続き、重症の場合は水を飲むことも辛くなります。放射線治療が終わると通常は3~4週間ぐらいかけて少しづつ粘膜は元に戻ってきます。そして最も重症な副作用が放射線による顎骨の壊死(顎の骨が腐る)です。放射線が当たった顎の骨は、ちょっとしたことがきっかけで感染を起こし、壊死を起こすことがあります。最も多いきっかけは抜歯です。放射線治療が終わって何年か経過すれば安全に抜歯できるだろう、と思われがちなのですが、実際は放射線治療後何年経っても、顎骨壊死の危険性はほとんど変わらない、と言われています。放射線治療が終わった後も、抜歯をしなくて済むように定期的に歯科で口のチェックやケアを受け続ける必要があります。

骨を強くする薬による口の副作用

がんが骨に転移した時の治療の一つに、転移した部分の骨折などを予防し、痛みを和らげるために、骨を強くする薬剤(ビスフォスフォネート製剤や抗ランクル抗体といった、骨修飾薬と呼ばれる薬)を使用することがあります。この骨修飾薬を長い期間使用すると、顎骨壊死(顎の骨が腐る)という重症な副作用が起きることがあります。顎骨壊死の副作用は、口の衛生状態が悪く細菌が多いと起きやすく、また歯を抜いた傷から起きることが多いです。予防には骨修飾薬を使い始める前に必ず歯科を受診し、問題のある歯はあらかじめ抜歯をしておくこと、口を清潔に保つための衛生指導(歯ブラシ指導など)を受けておくこと、また投与中も口の衛生状態に気を配り、定期的な歯科のチェックやケアを行うこと、薬剤使用後は抜歯をできるだけ行わないことが大切です。

がん治療が始まる前に行う口のケア

がん治療中に起こる口の副作用への対応は治療の開始後、つまり口のトラブルが起きてから対応するのではなかなか間に合いません。がん治療を始める前にあらかじめ口の中を清潔にして、トラブルが起きにくいように準備することが大事です。口の副作用が起きる可能性が高い治療を予定されている患者さんは、治療が始まる前に歯科を受診し、あらかじめ口の中を良好に整える管理を行ってからがん治療を行うことをお勧めします。

がん治療時に口の副作用が現れた場合

口内炎の場合

抗がん剤や口への放射線によって起こる口内炎を抑える画期的な薬の開発には、もう少し時間がかかりそうです。起きてしまった口内炎の対策は、(1)口の中をきれいにして、感染を予防する(2)口の中を潤った状態に維持し、乾燥させないようにする(3)痛みを和らげるよう、様々な痛み止めをしっかり使うこと、この3つが基本になります。

感染症

むし歯や歯周病の悪化など、口の感染が起きた場合は、歯科での治療や処置が必要になります。がん治療中に歯科の治療を受けるためには、がん治療の妨げとならないように、必ずがんの主治医や歯科医師と相談して行ってください。

がん診療連携登録歯科医について

がん診療連携登録歯科医とは、厚生労働省の委託を受けて日本歯科医師会が主催する「全国共通がん医科歯科連携講習会」を修了し、がん患者さんへのお口のケアや歯科治療についての知識を習得した歯科医師のことです。

がん診療連携登録歯科医名簿(出典:がん情報サービス)
https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/medical_treatment/dental/dentist_search.html